超音波の驚異と大食らい,そして危機 コウモリ

今回はコウモリの食べ物のお話をします。 小型のコウモリは,昆虫や魚,は虫類や果実など様々なものを食べ ますが,多くの種類が昆虫食であることが分かっています。コウモ リは夜採餌に出かけると,空を飛びながら飛翔している蛾や蚊を捕 らえて食べるのです。では,真っ暗な夜にあんな小さな蚊をどうや って見つけ,捕らえているのでしょうか? 

実は,コウモリたち( 今回は小型のコウモリのお話です)は口や鼻から「超音波」を出してそれが獲物に跳ね返ってくる音を聞き分けて虫の場所を知ってい るのです。「超音波」というのは人間の耳には聞こえないほどの高い音で,コウモリの場合20キロヘルツ〜160キロヘルツ(人間の耳は10〜15キロヘルツが限界)の音をだします。飛びながら超音波を発し,獲物がいると,音の跳ね返りで場所や大きさを識別しているのです!その精度は非常に高く,ある実験では直径0.17・の釣り糸をもよけ たというのです。こうした驚異的な能力は,潜水艦のソナーや魚群 探知機などに応用されているといえば実感がわく方もいるでしょう。

そしてもう一つ,コウモリと食べ物の関係で特筆すべきものは「大食らい」です。小さい体で飛翔をおこなうコウモリは,餌をたくさん食べなくてはいけないのです。彼らは一晩に体重の約3分の1の重さの餌を食べるといわれています。では計算してみましょう。仮に体重10グラムのコウモリが一晩に3グラムの虫を食べたとします。これは蚊にすると500匹以上です!一つのねぐらに100 頭のコウモリがいたとすると,一晩にねぐらの周りの蚊を50000匹も食べていることになります!体重がもっと重いコウモリなら,その数もうんと増えます。このように,コウモリは鳥と同じように昆虫が増えすぎるのを防いでいるのです。しかし,コウモリェ 地球上に登場した頃にはすでに鳥たちが繁栄していたので,鳥と同じような食生活のコウモリは,活動時間を夜に移すことによって現在まで繁栄してきたのです。

そんな「益獣」ともとれるコウモリですが,近年はその個体数が激減しているといわれています。理由の一つとして「ねぐらの減少」があげられます。樹洞をすみかとするようなコウモリは,近年の大径木の伐採によってねぐら環境がどんどん悪化しています。また,洞窟棲のコウモリに関しても,洞窟の観光地化などによってすみかを追われています。こうして追われたコウモリのうち,数種類は人家に適応してそこをねぐらにしています。しかし,人とコウモリが 同所に暮らすと,糞尿や臭い,騒音などの問題が生じてきます。海外では人家からコウモリを追い出した後に,近くに「バットハウス」 といわれる巣箱をかけ,そこにコウモリが入るようにして共存をはかっています。

現在日本では,約33種いるコウモリのうち,約28種類が環境庁 のレッドデータ種としてランクされています。コウモリは気持ち悪いと思っている人が大半ですが,実は生態系の中で重要な役割を担っているのです。次にコウモリを見かけたら,ドラキュラを頭の中に想像する前に今回のお話を思い出してみてください。【志水謙祐・嶋田泰也】