光を得るための積極的な工夫

植物の生長にとって最も重要なのは光です。植物は自分で動くことができないので与えられた場所と環境の中でいかにうまいこと光を獲得するかが,その後の成長を左右します。しかし,植物も動けないからといってその状況に甘んじているのではなく,実は積極的に環境に対して働きかけているのです。その内容は次の3つに分けることができます。

まず1つ目は,葉の角度を変えるということです。太陽光線と葉面のなす角度は葉の吸収する光の量を決定しています。その角度が垂直に近くなるほど,吸収される光量 は大きくなります。その辺で見られる植物でも,より暗い環境で育つ植物の葉は水平に,どぴーかん下で育つ植物の葉はより垂直に傾いてついています。夏場の街路樹などを見てみると,明らかに上部の葉はたれてついているのが分かります。

2つ目は,葉の付け方や形を変えるということです。ある1個体の植物に注目してみると,上部の葉っぱに下部の葉っぱが重ならないように葉をつけている様子が分かるはずです。逆に,自分の葉によって光が当たらなくなってしまうことを自己庇陰といいます。また,多くの光を獲得できる上部に葉っぱを密に付けているものは,下の葉の葉柄をのばし,重ならない努力をしているのが分かります。

最後に3つ目は,枝の伸ばし方を変えるということです。まず,1本だけで生えている樹木を想像して下さい(光はほぼ真上から降ってくることを仮定)。

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このような樹形になると考えられます。では,複数の木が集まって生えるとこんな感じでしょうか(光はほぼ真上から降ってくることを仮定)?   

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こんな感じになるでしょうか? この中から真ん中と端の個体だけ取り出すとこんな樹形になっています。

1) 真ん中     2)右端

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以上のことから,樹木は光が十分に当たるときはあらゆる方向に枝を伸ばしますが(一本の木),光を獲得するための競争が起きているときには(複数の木),光が当たる場所にだけ枝を伸ばし,無駄なところには枝を伸ばさないのです。
1) 真ん中の木は左右からの光は見込めないので,上のみに枝を伸ばす。
2) 右端の木は左からの光は見込めないので,右に枝を伸ばす。
以上のように植物はより多くの光(食べ物)を獲得するために地味に頭を使っているのがよく分かります。もしやしたら,無駄遣いしまくっている人間よりよっぽど賢いかもしれませんね。このように植物は動けないからといって受動的に生きているわけではなく,積極的により住み心地のいい環境の実現を目指しているのです。【志水謙祐・嶋田泰也】