秋田のツバキ ユキツバキ

「ヤブツバキ」(一般的に言うところのツバキ、以後ツバキと書く。)は学名をCamellia japonica カメリア・ヤポニカという。イエズス会宣教師で植物の研究家ジョセフ‐カメルが、18世紀に欧州に紹介した日本原産の樹木である。常緑樹であることや、まだ寒く花が少ない時期に、見事な赤い花を咲かせるツバキは欧州でも人気を博した。

飾りとして、ツバキの花しか持たないため、椿姫とあだ名されたパリの高級娼婦マルグリットと純真無垢な青年アルマンのひたむきな恋と別離を題材にしたデュマ・フィスの長編小説「椿姫」を読んで感動した方も多いのではないだろうか。発刊からわずか5年後には、ベルディ作曲のオペラ「椿姫」としても人気を得た。四季を通じて葉が青々と繁り、しかも花の少ない時期に情熱的な赤い花を咲かせるツバキをマルグリットは自身の病(結核)と対比させたのかも知れない。

ツバキの花には香りがない。それは、必要がないからだ。一般的に、花は昆虫の気を引くためにきれいで目立つ色の花をつける。そして香りも重要な道具となる。ツバキの場合、咲く時期が早春なので昆虫が少ないということもあり、鳥を利用している「鳥媒花」なのだ。鳥は、色には敏感だが、においには鈍感なので香りは必要ない。鳥が止まりやすいように肉厚の花びらを持ち、ホバーリング対応で横向きに花を咲かせる。オシベの長さや蜜のありかは完全に鳥用になっている。(もちろん、ハナバチ類などの昆虫も訪れる。)

寒中でも青々として光沢のある葉を保てるのは「クチクラ」という、表皮細胞から分泌してできた堅い層を持っているからだ。葉の保護・水分蒸散防止などに役立っている。植物では主にクチンおよび蝋(ろう)からなっている。人間の頭髪をおおっている「キューティクル」と同義だ。ツバキの語源が、艶葉木・厚葉木というのもうなずける。


ここからが本題である。横手市で普通に見られる自生ツバキは「ユキツバキ」と呼ばれ、全国的にはほとんど分布していない。北日本の日本海側から北陸にかけての多雪地帯だけに生息している。ほとんどの図鑑の説明で、「ヤブツバキの変種」という言い方には、素直に納得できないでいる。小さい頃から、ツバキといえば「ユキツバキ」なのだ。ここで、「ヤブツバキ」と「ユキツバキ」の特徴を比較してみよう。

樹 高

花弁の幅

オシベ(花糸)

葉柄

種  子

ヤブツバキ

10M〜15

太い

広い

長くて癒着部が多い

厚い

長い

小型で数は多い

ユキツバキ

1M〜 2

細い

狭い

鮮黄色で短い

薄い

短い

大型で数は少ない


「ユキツバキ」は、雪に埋もれて暮らす冬季があるので、幹は細くしなやかで折れにくい。たわめて曲げることができるので、炭俵のふたに利用した地方もあるそうだ。雪に埋もれてしまえば、0℃以下になることはないから、わざと樹高も低くしている。あわよくば、接地枝から根を出し、株を分け群落を形成する。葉は薄いので、雪で傷つくことも少ない。柔よく剛を制す。自然条件が厳しいので種子にはたっぷりとパワーを与えている。

いかがだろうか。秋田県人の鑑のような樹木ではないか。ツバキと言えば「ユキツバキ」なのである。(少し、興奮している。)

余談だが、世の中よくできたものだ。ヤブツバキとユキツバキ、双方が分布域を同じくすることはないが、両者の長所と短所を受け継いだハーフ、「ユキバタツバキ」が間を埋めている。

ユキツバキ   雪 椿【ツバキ科ツバキ属】Camellia rusticana
ユキバタツバキ 雪端椿【ツバキ科ツバキ属】C.japonica ver.intermedia