SOS信号を使い分ける キャベツ
 虫の食害を受けたときに、植物はどのようにして防衛しているのか。よく知られている例は、タバコのニコチンのような「毒物質」の生産による防衛(直接防衛)である。しかしそれだけではない。これまでの多くの研究例から、植物は虫の食害に応答して、普段はほとんど生産しない特別な「匂いブレンド」を生産すること、またこの匂いは、食害している虫(特にチョウ目幼虫やハダニ)の天敵を誘引する場合があり、しかも匂いを変えて食害する虫に適した天敵を呼びよせることが明らかになってきた。
 
 たとえば、コナガの幼虫に食べられたキャベツやコマツナが放った匂いは、この幼虫に卵を産みつけて寄生するコナガサムライコマユバチを呼び寄せるのだ。

 匂いの生産によって植物は間接的な防衛を果たし、一方、天敵はこのような植物に呼び寄せられることで効率よく奇主を発見することができる。こうした現象は、イネ科、アブラナ科、マメ科、ナス科等々さまざまな植物でも報告されている。
 
 われわれは、植物の持つ間接防衛能力の解明を通して、農薬の使用を減らし、天敵を有効利用した環境に優しい農業技術の確立を目ざした研究に農業研究センター、および民間2社(曽田香料、四国総研)と取り組んでいる。

高林純示/京都大学生態学研究センター(掲載:自然保護NOV./DEC.2004 No.482)